目の奥にある網膜は、眼球の内側を覆う透明な膜であり、「視力」と「視野(見える範囲)」の機能を維持する上でとても重要です。
同時に、光を知覚する役割も担っています。
そのため、網膜の病気が発症すると、さまざまな目の症状を引き起こすことがあります。
特に、網膜に深刻な影響を及ぼす病気のひとつが「網膜静脈閉塞症」(網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分岐閉塞症)です。
この疾患は、網膜内の血流がうまく行われないことで、視力と視野の低下をもたらし、最悪の場合、失明に至る可能性がある非常に深刻な病気です。
この記事では、この「網膜静脈閉塞症」に焦点を当てて、この疾患の種類と症状、そして有効な治療方法について詳しく解説します。
初めて網膜静脈閉塞症に触れる方にも、この記事を通して理解を深めて、早期発見、早期治療の手助けとなれば幸いです。
目の健康は、生活の質に大いに影響するため、一人でも多くの人がこの記事を通じて正確な情報を得られることを願っています。
網膜静脈閉塞症とは
網膜静脈閉塞症とは、そもそもなんでしょうか。
簡単に言うと、網膜静脈閉塞症とは網膜内の血管が詰まる病気です。
網膜内に存在する動脈と静脈の中で、「網膜の静脈」が閉塞病態(詰まる)を示す病気です。
一方で、動脈が閉塞した場合は「網膜動脈閉塞症」という別の疾患となります。
基礎疾患として、
があると起こりやすくなります。1)
1)所敬. 現代の眼科学 改訂第12版. 金原出版, 2015 , 183.
網膜静脈閉塞症の原因
原因としては、加齢、基礎疾患、生活習慣などがあります。
加齢
60歳以上の方に多いといわれています。
基礎疾患
若年者では、
があると起こりやすいとされています。1)
1)所敬. 現代の眼科学 改訂第12版. 金原出版, 2015 , 183.
生活習慣
血管の閉塞が関わる病気のため、体の健康管理という観点から、生活習慣へ配慮することが大切です。
健康的な食事と適度な運動を取り入れ、良質な睡眠を心がけましょう。
さらに、喫煙や肥満などはリスク要因とされています。
網膜静脈閉塞症の症状

網膜の中央には、目の機能を保つために重要な部位である黄斑部が存在します。
網膜静脈閉塞症では、黄斑部にしばしば黄斑浮腫(黄斑部に水がたまり腫れる)という病変が生じ、視野の中央が不明瞭になって物が歪んで見えたり、視界の中心が見えにくくなったりします。
さらに、網膜静脈の閉塞領域に該当した視野障害が生じると、視界の周辺が欠けたり、ぼやけたりする可能性があります。
網膜静脈閉塞症のセルフチェック
下の図のように見えたり、他にも見え方に何らかの違和感を感じた場合は、早急に眼科の診察を受けることをおすすめします。
もし可能であれば、上記の用紙を印刷し、見え方をメモしていただけると、スムーズな診療に役立ちます。

網膜静脈閉塞症の種類
閉塞が発生する部位によって、「網膜中心静脈閉塞症」と「網膜静脈分岐閉塞症」の2つに分けられます。
網膜中心静脈閉塞症
網膜中心静脈閉塞症 (Central Retinal Vein Occlusion – CRVO)は、網膜静脈の中心部分が閉塞する疾患です。
この閉塞により、血液の流れが滞り、網膜への酸素や栄養供給が不足するようになります。
この疾患は、
という2つのタイプに分けられます。
「虚血型」は、網膜の毛細血管が広範囲に閉塞する状態を指します。
この結果、網膜への血液供給が大幅に減少し、視力が著しく低下します。
特に、視神経が集まる黄斑部分が影響を受けると、視界の中心部分が見えなくなります。
一方、「非虚血型」は、網膜静脈のうっ滞が主で、網膜の虚血があまり見られない状態です。
視力低下が発生する可能性がありますが、虚血型に比べて視力低下が比較的軽度で、進行が遅いことが特徴です。
どちらの型でも、血液の流れが滞ることで、網膜に新たな血管が生じる「新生血管」が発生することがあります。
新生血管は壊れやすく、簡単に出血を引き起こすため、さらなる視力低下や網膜剥離のリスクがあります。
網膜静脈分岐閉塞症
網膜静脈分岐閉塞症(Branch Retinal Vein Occlusion:BRVO)は、網膜静脈の分岐(枝分かれした)部位で閉塞が生じる疾患です。
この状態では、網膜の特定の部分の血流が阻害されます。
そのため、視力の低下や視野の欠損が部分的に発生することがあります。
たとえば、次のような症状が見られます。
この疾患は網膜静脈閉塞症の中で最も一般的であり、全体の70〜85%を占めるとされています。2)
2)所敬. 現代の眼科学 改訂第12版. 金原出版, 2015 , 184.
網膜静脈閉塞症の合併症
この疾患は網膜静脈閉塞症の中で最も一般的であり、全体の70〜85%を占めるとされています。
硝子体出血
網膜の血管が閉塞することにより酸素が不足します
そこで、それを補うために新しい血管(新生血管)が増殖しようとします。
しかし、これらの新生血管は本来存在しないため、非常に脆弱で簡単に破れる傾向があります。その結果、硝子体内出血が生じることがあります。
軽度の硝子体内出血の場合、視界に黒い点や糸くずが浮かび上がる「飛蚊症」の症状が現れることがあります。出血量が多い場合、より高度な視力障害や視野障害が発生します。
網膜剥離
新生血管の周りにできる増殖膜は、網膜を引っ張ることで牽引性網膜剥離を引き起こすことがあります。
軽度の場合、視界に黒い点や糸くずが見える「飛蚊症」の症状が現れ、重度の場合には高度な視力障害や視野障害が生じることがあります。
血管新生緑内障
網膜内に形成された新生血管が、目の前側(虹彩・隅角)まで伸びることがあり、それによって眼圧が上昇し、緑内障を発症することがあります。
この状態は「血管新生緑内障」として知られており、進行すると通常の緑内障と同様の症状(視野障害など)を引き起こします。
網膜静脈閉塞症の検査
視力検査
視覚能力を評価するための検査です。環の切れ目の方向を読み取り、それを正確に回答することで視力値が評価されます。
屈折検査
目の度数(屈折度)を測定するための検査です。この検査は、遠視、近視、乱視などの程度を評価するのに使用されます。
眼圧検査
眼圧(眼球の形状を維持するための一定の圧力)を測定する検査です。
アムスラーチャート
視覚の歪み(屈折異常)の有無とその程度を評価するための検査です。
細隙灯顕微鏡検査
主に前眼部(角膜、結膜、前房水、虹彩、水晶体など)を観察します。また、特殊なレンズを使用することで後極部(硝子体、網など)も詳しく観察できます。
眼底検査
眼球の奥に位置する眼底を詳しく観察し、網膜や視神経の状態を評価します。
光干渉断層計(OCT)
網膜や脈絡膜の断面像を撮影します。非侵襲的に短時間で行うことができます。
網膜静脈閉塞症の治療
抗VEGF薬注射
VEGF(血管内皮増殖因子)の過剰な発生により、血管透過性が増加し、黄斑浮腫が引き起こされます。
この黄斑浮腫の改善を目的として、VEGFの働きを抑制する薬(抗VEGF薬)を眼内に注射する治療が行われます。
医療法人社団 慶月会では、抗VEGF薬を眼内に注射する治療を提供しております。
王子さくら眼科「硝子体注射について」
ステロイド薬注射
黄斑浮腫の治療では、第一選択は抗VEGF薬ですが、ステロイド薬を眼内に注射して対応する場合もあります。
レーザー治療
新生血管の形成を防ぐために、酸素不足の状態にある網膜にレーザー照射を行います。
この治療は黄斑浮腫の改善に効果があることがあります。
散瞳後に点眼麻酔を行い、レーザー治療用のコンタクトレンズを装着して行われます。
1回あたりの治療時間は10〜15分程度であり、広範囲の網膜に対する処置を行う場合(汎網膜光凝固術)は、日を空けて数回に分けて行うこともあります。
王子さくら眼科「眼科レーザー治療について」
内服薬での治療
網膜血管の循環を改善したり、血をサラサラにしたりする薬で血流の改善を図ります。
合併症の予防
網膜静脈閉塞症は、加齢が原因となることもあるため、完全な予防は難しいですが、体の健康管理を意識することはとても重要です。
また、高血圧、動脈硬化、心臓疾患などの基礎疾患がある場合は、リスク因子となり得るため、主治医と協力して病態が悪化しないように相談をすることで予防につながります。
医療法人社団 慶月会の網膜静脈閉塞症の治療
医療法人社団慶月会では、網膜静脈閉塞症の治療に取り組んでおります。
当院では、患者様一人ひとりの病状や生活習慣を詳しく把握し、その状況に合った最適な治療法を選択しています。
抗VEGF薬の注射などの硝子体注射を始め、レーザー治療、内服薬など、疾患の進行を抑制し、視力を維持するための幅広いアプローチを行っております。
さらに、当院には経験豊富な視能訓練士が在籍し、適切な検査を実施しております。
これにより、病状の評価と治療の進捗を確実に追跡し、最適なケアを提供することが可能です。
症状に不安を感じている方や治療について詳細を知りたい方は、どうかお気軽に当院までお問い合わせください。
医療法人社団慶月会のスタッフ一同、皆様からのご連絡を心よりお待ちしております。
王子さくら眼科
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