
点眼・洗顔・入浴・運動・仕事復帰のタイミングは?安全な回復と合併症予防のために
白内障手術は短時間で視力を回復できる非常に有用な治療ですが、眼の組織はデリケートであり、油断すると感染症や出血などのリスクを招くことがあります。
特に術後しばらくは、昔から続く「慎重すぎるのでは?」と思えるような注意点も多いかもしれません。しかし、患者さん自身の眼を守り、トラブルを避けるためには、医療側と患者さんがしっかり連携し、ルールを守ることが不可欠です。
本記事では、白内障手術後の具体的な注意事項について、眼科医が詳しく解説します。点眼の方法から洗顔・入浴・運動の可否、さらに生活の中で「ここだけは守っておきたい」というポイントを網羅的にまとめました。合併症リスクを最小限に抑え、安全かつスムーズな回復を目指しましょう。
下記のYouTube動画では、年間3万人以上を診察する眼科専門医の上月が対談形式で、最新の治療法をわかりやすく説明しています。治療に対する理解を深めるために、ぜひ合わせてご覧ください。
白内障手術は「日帰り」が一般的に

近年の白内障手術は小さな切開創で行われることがほとんどで、10分程度と短時間で終了します。多くのクリニックや病院で日帰りの施術が主流となっており、入院が必須という時代は過去のものになりました。
白内障手術の際、目に小さく切開創をつけてそこから眼内レンズを挿入します。昔は6mm程度切開していたのですが、現在は2.4mm程度しか切らなくてよいようになりました。
というのも、眼内レンズは6mm程度の大きさで、昔はそのまま入れていたので目の方も6mm切らなければなりませんでした。しかし、現在は「折りたたんだレンズを挿入し目の中で素早く開く」という形が採用されるようになったため、小さなキズで済むようになりました。
目につける傷が6mmであった頃は、白内障手術中に「駆逐性出血」という目の奥が大出血するリスクが現在よりもありました。しかし、今は上記の理由から非常に小さな切開創で白内障手術を行えるようになったため、トラブルのリスクが低くなりました。
ただし、「昔よりトラブルのリスクが低い=何の注意もいらない」というわけではありません。
大げさに聞こえるかもしれませんが、術後どのように過ごしたかによって今後の見え方が大きく変わると言えます。そのため、主治医からの指示に従うことがとても大切です。
術後の通院スケジュール

白内障手術後の経過観察としては、以下のような受診タイミングが一般的です。
- 手術翌日(必須)
- 1週間後
- 1か月後
施設によっては2日目や3日目、2週間後にも受診を指定するケースがあります。
当院では、翌日、2日目または3日目、1週間後、2週間後、1ヵ月後と来ていただいています。
これは、術後早い段階で起きる感染や炎症をいち早く見つけるためです。
感染が2日目・3日目に起こることがあるので、そのチェックを行いたいという理由で来院をお願いしています。
ただし、お仕事が忙しくてどうしても来れないと言う方に関しては、御本人と相談の上で2〜3日目の通院はスキップし、何かあれば必ず連絡してくださいとお伝えするような場合もあります。
その他、ご高齢の方や持病のある方など、特にリスクが高い場合は受診間隔が細かく設定させていただくことがあります。
点眼薬はしっかり使う

白内障手術後は、数種類の点眼薬が処方されることが多いです。一般的には次の3種類(あるいはそれ以上)が挙げられます。
- 抗菌薬の点眼
- 感染を防ぐ目的。
- ステロイド点眼
- 術後に必ず起こる炎症を鎮めるため。
- 非ステロイド系抗炎症点眼
- 黄斑部(視力の要)のむくみ・浮腫(黄斑浮腫)などを抑制。
これらを1日4回や2回など、複数回に分けて1か月程度使用するケースが一般的です
近年は手術技術の向上で感染リスクや炎症リスクが下がり、「目薬の使用は2週間程度でOK」とするクリニックもありますが、そこはあくまで医師の方針次第。
どちらにせよ、「指示された通りに根気よく点眼を継続する」ことが重要です。
術後の薬の管理が一番大変だということを患者さんからもよくお伺いします。
大変かとは思いますが、術後のトラブルを防ぐためにも、指示通りの点眼をお願いいたします。
なお、昔は今よりも切開創が大きかったこともあり、白内障術後に飲み薬を出す医師が多かったですが、現在当院では目薬のみを処方しております。
傷口は最小限、でも「万が一」に備える
最初にもお話しましたが。昔は6mm前後と大きく切開していたため、術後の感染や出血が多めに起こる懸念がありました。現在は2.4mm前後の非常に小さな切開創で手術できるようになり、合併症の発生率が激減しています。
とはいえ、極低い確率でも眼内炎(感染症)や駆出性出血などの重大トラブルが起こり得ることを念頭に置き、指示された制限を守ることが大切です。
「1万件中1人も問題を起こさない」というレベルを目指して、医師側はあえて厳しめの注意を伝えていると理解しておくとよいでしょう。
ゴーグル着用の意味
術後しばらくの間、ゴーグルや保護メガネを渡されるケースがあります。これは下記の目的のためです。
- 外傷予防:うっかり眼をぶつけないようにする
- 自己触覚予防:無意識にこすってしまうのを防ぐ
- 埃やゴミの侵入予防
寝ている間も目をこする可能性があるため、**「就寝時も含めて1週間程度は着用推奨」**というクリニックが多いです。
洗顔・洗髪・入浴のタイミング

大まかな目安として、
- 当日:髪の毛や顔は洗わず、首から下だけの入浴も原則NG。
- 翌日~1週間:首から下のシャワーOK。顔や頭はできれば触れない(美容室等で慎重に洗ってもらうのは可)。
- 1週間後~:様子を見て通常の洗髪・洗顔OK。
ただし、中には「3日目くらいからなら髪を洗っていい」「翌日からシャワー可」というゆるやかなルールを設定している眼科もあります。
いずれにせよ、「目に水やシャンプーが入らないようにする」ことが絶対条件です。どうしても気になる場合は家族に頭を洗ってもらう、洗髪専門の美容室を利用するなどして工夫しましょう。
運動・筋トレ・仕事復帰

術後は血圧を上げるような動作(強い筋トレや重い荷物を持ち上げるなど)は、1週間程度控えるよう指導されることが多いです。
なぜなら、術後間もない時期に急な血圧上昇が起こると、目の奥で出血を引き起こす可能性があるからです。そうなると、場合によっては失明につながる可能性もあります。術後しばらくは医師の指示を守って、安静に過ごしてください。
- ウォーキング・軽いストレッチ:翌日からでも問題ないことがほとんど。
- ランニング・激しいスポーツ:1週間は様子見。汗が目に入るリスクも留意。
- 仕事復帰:デスクワークなら翌日~数日後にOK。ただし、疲れを感じたら無理せず休憩を。
緑内障点眼との兼ね合い
もしも緑内障の治療で点眼薬を使用している場合、白内障手術後も基本的には継続することが多いです。ただし、以下の例外に注意が必要です。
- エイベリス:EP2受容体作動薬(オミデネパグ イスペリル)
- 術後の黄斑浮腫リスクを高める可能性があり、術後は使用禁止(または中断)。
- プロスタグランジン系点眼(キサラタン、タプロス等)
- 一時的に中止を指示されるケースと、継続OKのケースがある。医師の判断に従う。
術後は医師に「緑内障の目薬はどれをどう続けたらいいか」を必ず確認しましょう。
術後の視力安定とメガネの作り替え
白内障手術で挿入する人工レンズ(眼内レンズ)は、術前の検査で度数を計算し、ターゲットとなる屈折状態を決定します。通常、手術直後からある程度はっきり見える方が多いですが、
- 術後1週間程度:まだレンズの位置が微調整される段階で、視力が変動しやすい。
- 術後1か月:大半の人が視力安定期に入り、最終的な度数を決定できる。
そのため、メガネを新調する場合は、1か月目以降が推奨されています。直後に作ってしまうと、後日視力が変化して度数が合わなくなる可能性があるので、作り直しコストを含め検討するのがおすすめです。
まとめ
- 白内障手術は短時間・日帰りが主流だが、術後の合併症をゼロに抑えるために慎重な注意が必要。
- 頻回の点眼(抗菌・ステロイド・抗炎症)は指示通り継続。1か月程度が一般的だが、施設により違いがある。
- 髪の毛・顔を洗うのは1週間後が目安。ただし「数日でOK」とする眼科もある。目に水を入れないよう工夫するのが最重要。
- スポーツや筋トレは約1週間控え、血圧上昇や目の外傷に注意。
- ゴーグル着用は自分で目をこすってしまうリスクや、外傷を防ぐために理にかなった対策。
- 視力安定は1週間~1か月程度。メガネの新調は安定期以降がベター。
- 緑内障点眼との兼ね合いに注意。エイベリスは術後使用不可、プロスタグランジン製剤を一時中止するかどうかは医師の判断。
冒頭でも述べた通り、多くのクリニックでは「絶対安全」を求めるがあまり、やや厳しめの注意事項を提示することがあります。
しかし、白内障手術は失敗リスクが少ない一方で、万が一の合併症を起こすと患者さんの生活に大きな支障をきたす可能性があります。大事なのは、**「可能性がゼロであっても1件でも事故があったらいけない」という姿勢」**です。
手術後は少し息苦しく感じるかもしれませんが、指示をしっかり守って快適な視界を取り戻しましょう。わからないことや疑問があれば、遠慮なく主治医に質問してクリアにしておくことが大切です。自分の目を守るのは自分です。適切なフォローアップを受けながら、長く明るい視界を享受していきましょう。
なお、当法人は東京都内に北区王子の「王子さくら眼科」と世田谷区経堂「経堂こうづき眼科」2つのクリニックを展開しております。もし白内障手術について気になっているという方がいらっしゃいましたら、ご都合に合わせてお選びの上ご来院ください。
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この記事の監修

上月 直之
こうづき なおゆき
医療法人社団慶月会理事長
日本眼科学会認定眼科専門医
所属学会
日本眼科学会
日本眼科医会
東京都眼科医会
日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)
ICL研究会
日本緑内障学会
日本小児眼科学会・日本眼科アレルギー学会
日本角膜学会・ドライアイ研究会
オルソケラトロジー講習会修了
経歴
神戸大学工学部情報知能工学科 卒業
岡山大学医学部医学科 卒業
横浜市立市民病院 初期研修
慶應大学病院 眼科学教室
済生会中央病院 眼科
鶴見大学歯学部附属病院 眼科学教室
医療法人社団慶月会 理事長
日本眼科学会認定 眼科専門医
2018年 経堂こうづき眼科 開院
2021年 王子さくら眼科 開院
2022年 経堂白内障手術クリニック 開院
神戸大学と岡山大学で学び、慶應大学病院眼科学教室を経て、2018年に経堂こうづき眼科開院。日本眼科学会認定の眼科専門医であり、地域医療に貢献するとともに、最先端の医療提供に努める。最新の白内障手術を必要とされる方に受けてもらうため2022年経堂白内障手術クリニックを開院。