子どもの目の健康は、将来の学習や生活に直結する大切なテーマです。
眼科を受診した際に「瞳孔を開く検査」を勧められることがありますが、親御さんからは「なぜ必要なの?」「副作用は大丈夫?」といった不安の声も多く聞かれます。

本記事では 「なぜ子どもの目の検査には瞳孔を開く目薬をさす必要があるのか?」「瞳孔を開く目薬は子どもにどんな副作用があるの?」など、その目的や安全性、注意点をわかりやすく解説します。

当院理事長が子どもの近視について動画で詳しく解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。

瞳孔を開く検査とは?

瞳孔を開く仕組み

「瞳孔を開く検査」とは、点眼薬を使って一時的に瞳孔(黒目の中央部分)を大きく広げる検査のことです。
専門用語では「散瞳(さんどう)検査」や「調節麻痺下屈折検査」と呼ばれます。

なぜ必要なのか

子どもの目は調節力(ピントを合わせる力)が非常に強いため、通常の検査では正確な屈折度数(近視・遠視・乱視の状態)を測定できないことがあります。
そこで瞳孔を開く薬を使うことで、調節を一時的に止め、正しい視力や度数を把握することが可能になります。

子どもに瞳孔を開く検査が必要な理由

眼鏡を掛けた子ども

1. 弱視(視力の発達が不十分な状態)の早期発見

弱視は8歳頃までに治療を始めないと改善が難しくなるため、正確な検査が欠かせません。

弱視とは?

弱視とは、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても視力が十分に発達しない状態を指します。

通常、子どもの視力は6〜8歳頃までに完成するといわれていますが、その過程で網膜(目の奥にある光を感じる部分)に鮮明な像が映らないと、脳が「正しい見え方」を学習できず、視力が発達しなくなってしまいます。

弱視の原因には以下のようなものがあります。

  • 強い遠視や乱視
  • 片目だけ視力が弱い不同視(ふどうし)
  • 斜視(目の向きがずれてしまう状態)
  • 先天的な目の病気(白内障など)

特に幼児期の子どもは、自分で「見えにくい」と訴えることが少ないため、周囲の大人が気づきにくいのが特徴です。
そのため、早期発見のためには眼科での正確な検査が不可欠となります。

2. 斜視(目の向きがずれる状態)の診断

斜視の有無や程度を知るためにも、調節の影響を取り除いた検査が必要です。

斜視とは?

斜視のイメージ

斜視とは、左右の目が同じ方向を向かず、片方の目がずれてしまう状態を指します。
通常、人は両目で見た映像を脳で統合して「立体的に見る力(立体視)」を育てていきます。しかし、斜視があると両目のバランスが崩れ、視力の発達や立体視に悪影響を及ぼすことがあります。

斜視の種類には以下のようなものがあります。

  • 内斜視:目が内側に寄るタイプ
  • 外斜視:目が外側にずれるタイプ
  • 上斜視・下斜視:上下にずれるタイプ

子どもの場合、本人が自覚していなくても「片目を隠すと嫌がる」「首をかしげて物を見る」「写真で片目だけ光り方が違う」といったサインが見られることがあります。

放置すると上記で書いた弱視につながることもあるため、正確な診断のために瞳孔を開く検査が必要になる場合があります。

3. 正確な眼鏡処方

通常の検査だけでは度数を強く見積もってしまうことがあり、正しい眼鏡の処方のためにも重要です。

子どもの眼鏡処方の特徴

子どもの目は、大人に比べて「ピントを合わせる力(調節力)」が非常に強いため、通常の検査では実際よりも近視が強く出てしまったり、遠視や乱視が正しく評価されないことがあります。
その結果、本来より強い度数の眼鏡が処方されてしまうことがあるのです。

なぜ強めの度数はよくないのか?
  • 負担が大きくなる…必要以上に強い度数の眼鏡をかけると、頭痛や眼精疲労の原因になります。
  • 視力発達に影響…特に遠視の場合、適切な度数で矯正しないと弱視のリスクが高まります。
  • かえって見えにくい…強すぎる眼鏡は「くっきり見えるどころかかえってぼやける」と感じることがあります。

そのため、子どもの眼鏡処方には、調節力の影響を取り除いた正確な度数測定(瞳孔を開く検査)が欠かせないのです。

瞳孔を開く検査に使われる薬には主に「サイプレジン」と「アトロピン」があります。それぞれ解説していきます。

サイプレジン点眼

サイプレジン点眼
  • 方法:クリニックで5分おきに3回点眼、約45分後に検査
  • 効果:10〜24時間ほど続く
  • 副作用:近くがぼやける、一時的なまぶしさ

サイプレジン検査Q&A

Q:サイプレジン検査にはどのくらい時間がかかりますか?

A:当院では、5分おきに3回点眼を行い、その後45分〜1時間ほどで薬が効いてきます。その後に屈折検査や視力検査を行うため、ご来院からお会計まで おおよそ1時間30分〜2時間程度 かかります。混雑状況により前後することがあります。

Q:点眼は痛いですか?

A:点眼時に「しみる」感じがすることはありますが、強い痛みはありません。小さなお子さまでも多くの場合は問題なく受けられます。

Q:検査後は普通に生活できますか?

A:入浴や食事など日常生活は可能です。ただし、薬の効果で1日〜2日は手元が見えづらくなったり、光をまぶしく感じたりします。そのため、勉強や細かい作業、外での激しい運動、自転車の利用などは控えた方が安心です。

Q:検査後は必ず眼鏡を作らないといけませんか?

A:いいえ。サイプレジン検査は、あくまで「正確な目の度数を調べるため」のものです。眼鏡が必要かどうかは、検査と診察結果を総合的に判断して決定します。

アトロピン

アトロピン点眼
  • 方法:自宅で1日2回、1週間点眼し、その後再検査
  • 効果:数日〜数週間持続
  • 副作用:近くの見づらさ、まぶしさが長期間続く。

アトロピン検査Q&A

Q:アトロピン検査はどのように行いますか?

A:ご自宅で1日2回(朝・夜)、約1週間点眼していただきます。その後、ご来院いただき屈折検査を行います。サイプレジンと異なり、通院だけで完結せず、ご家庭での点眼が必要です。

Q:副作用はありますか?

A:点眼後に近くのものが見えにくくなったり、まぶしさを感じることがあります。効果はサイプレジンより長く、個人差はありますが数日から2〜3週間ほど続くことがあります。

そのほか、ごくまれにですが発熱や顔の赤み、食欲不振、頭痛、口の渇きなどの副作用が出ることがあります。

なぜ発熱や食欲不振が起こるのか?

アトロピンは目に点眼しても、一部が涙の通り道(鼻涙管)から体内に吸収され、全身に作用することがあります。
特に「汗腺」は交感神経に支配されながらもムスカリン受容体(M受容体)で発汗をコントロールしており、アトロピンはこの受容体をブロックします。

➡ その結果、発汗が抑えられて体温調節がうまくできず、乳幼児では 熱中症のように発熱することがあります。
また、消化管の動きや唾液分泌も抑えられるため、食欲不振や便秘、口の渇きといった症状が出ることもあります。

発熱などの副作用が出た場合の対応
  • 発熱、食欲不振、顔の赤みなどが見られた場合は 点眼を中止し、クリニックに連絡してください。
  • 点眼をやめれば、これらの症状はほとんどが自然に改善します。
副作用を減らす工夫
  • 点眼後に 鼻の付け根を軽く押さえる(涙嚢圧迫) ことで、薬が鼻涙管を通じて体内に吸収されにくくなり、副作用の予防につながります。

Q:日常生活に支障はありますか?

A:大きな制限はありませんが、手元がぼやけやすいため、本を読む・書く・細かい作業などは少し不便に感じることがあります。学校の勉強や宿題にも影響が出る場合がありますので、検査のスケジュールはあらかじめ余裕を持って調整されることをおすすめしています。

Q:なぜサイプレジンではなくアトロピンを使うのですか?

A:通常はサイプレジンを使用しますが、遠視が強い場合・弱視や内斜視がある場合 には、より効果が強く持続するアトロピンを使うことで、正確な検査結果が得られやすくなります。

Q:検査後は必ず眼鏡を作る必要がありますか?

A:いいえ。アトロピン検査は正確な度数を測定するために行うもので、眼鏡が必要かどうかは検査と診察の結果をふまえて判断します。

Q:点眼を忘れた場合はどうなりますか?

A:効果が十分に出ず、正確な検査ができなくなる可能性があります。点眼スケジュールは医師の指示通りに守ることが大切です。スケジュール通りに点眼した上でご来院ください。

検査当日の過ごし方

眩しいイメージ

瞳孔を開く検査を受けた日は、一時的に「手元がぼやける」「まぶしさを感じる」といった副作用が出ることがあります。安全に過ごすために、親御さんが知っておくと安心な工夫をいくつかご紹介します。

読書や宿題は控える

手元の文字が見えにくいため、無理に勉強させると疲れやすくなります。検査当日は学習よりもリラックスできる時間を意識しましょう。

外出時は帽子やサングラスを利用

瞳孔が開いているため、いつもより光をまぶしく感じます。屋外ではサングラスや帽子を活用すると快適です。

運動や細かい作業は控える

見えにくさから転びやすくなることがあるため、サッカーや自転車などの運動は避けた方が安心です。

送迎は大人が付き添う

見えにくさが残るため、一人での登下校や外出は危険です。保護者が一緒に行動してください。

こうした工夫を心がけることで、検査当日も安心して過ごすことができます。

当院でできること

小児眼科(子どもの目の検査)イメージ

当院では、小児眼科の経験豊富な医師と国家資格を持つ視能訓練士常駐しておりが、子どもに安心して受けてもらえるよう丁寧に検査を行っています。

また、必要に応じてサイプレジンやアトロピンを使い分け、お子さまの状態に合わせた方法で正確な診断を行います。必要に応じて検査後眼鏡の処方なども行っています。

学校健診で「要精密検査」と言われた場合も、瞳孔を開く検査を行うことで原因をしっかり調べることが可能です。

低濃度アトロピン点眼による近視抑制治療について

ちなみに、アトロピンは本来「瞳孔を開いて調節を止める薬」として検査に用いられますが、最近では 低濃度(0.01〜0.025%程度)に調整したアトロピン点眼薬 が、子どもの近視進行を抑制する目的で使用されるようになっています。

アトロピン点眼-マイオピン・リジュセアミニとは?

マイオピン
マイオピン
リジュセアミニ
リジュセアミニ
  • マイオピン:シンガポール国立眼科センターの研究に基づき開発された低濃度アトロピン点眼薬。
  • リジュセアミニ:2025年に発売された日本初の承認薬。防腐剤を含まない1回使い切りタイプで、より衛生的に使用可能。

いずれも、1日1回、就寝前に点眼するだけの簡単な治療法であり、臨床研究では 近視進行を平均60〜70%軽減 する効果が報告されています。

副作用について

従来のアトロピン1%点眼ではまぶしさや近見困難が多く見られましたが、低濃度アトロピンでは 副作用は非常に少なく、安全性が高い とされています。
日常生活に大きな支障はなく、安心して継続できる治療です。

治療の対象

  • 軽度〜中程度の近視
  • 6歳以上のお子さま

当院での費用(自由診療)2025年8月時点

  • マイオピン0.01%:1本 3,850円(税込)
  • マイオピン0.025%:1本 4,620円(税込)
  • リジュセアミニ0.025%:4,380円(30日分/税込)
    ※いずれも診察費・処方料は別途かかります

ご注意

  • 保険適用外(自由診療)です。
  • 近視進行が完全に止まるわけではありませんが、継続することで進行を抑制できる可能性があります。
  • 自己判断で中止せず、必ず医師の指示に従ってください。

まとめ

  • 子どもの瞳孔を開く眼科検査は、正確な視力測定・弱視や斜視の診断に欠かせない大切な検査です。
  • 一時的な副作用はあるものの、将来の視力を守るために必要なステップです。
  • 検査に不安がある場合は、医師に遠慮なく相談し、安心して受けられる環境を整えましょう。

動画で詳しく解説

マイオピンについて動画で詳しく解説しています。(リジュセアミニも効果は同様です)
近視進行予防にはオルソケラトロジーとマイオピン・リジュセアミニの併用が効果的です。

参考リンク

参考文献

  • 外山恵里ほか:小児に対するアトロピン硫酸塩点眼薬による副作用の発現率と症状. Japanese Orthoptic Journal 43: 213-218, 2014
  • 医療用医薬品 添付文書「アトロピン硫酸塩水和物点眼液」ロートニッテン, 2022年改訂版

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この記事の監修

上月院長


上月 直之
こうづき なおゆき
医療法人社団慶月会理事長
日本眼科学会認定眼科専門医

所属学会
日本眼科学会
日本眼科医会
東京都眼科医会
日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)
ICL研究会
日本緑内障学会
日本小児眼科学会・日本眼科アレルギー学会
日本角膜学会・ドライアイ研究会
オルソケラトロジー講習会修了

経歴

神戸大学工学部情報知能工学科 卒業
岡山大学医学部医学科 卒業
横浜市立市民病院 初期研修
慶應大学病院 眼科学教室
済生会中央病院 眼科
鶴見大学歯学部附属病院 眼科学教室

医療法人社団慶月会 理事長
日本眼科学会認定 眼科専門医
2018年 経堂こうづき眼科 開院
2021年 王子さくら眼科 開院
2022年 経堂白内障手術クリニック 開院

神戸大学と岡山大学で学び、慶應大学病院眼科学教室を経て、2018年に経堂こうづき眼科開院。日本眼科学会認定の眼科専門医であり、地域医療に貢献するとともに、最先端の医療提供に努める。最新の白内障手術を必要とされる方に受けてもらうため2022年経堂白内障手術クリニックを開院。